集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-08(2) 『ボレリッシュ』の世界初演を聴く

舞台にスコラ聴講生を招いての講義+演奏(三原市ポポロホール)舞台にスコラ聴講生を招いての講義+演奏(三原市ポポロホール)

 大量の手荷物を抱えたまま、慌てふためいて会場の階段を駆け上がり、指定された2階席の最前列に着席した途端にバッハの「マタイ受難曲」『主よ、憐れみたまえ』の演奏がいきなり始まった。そうだ、主よ、憐れみたまえ。夏風邪が治らぬ。坂本龍一の「MIHARA音楽の学校〜オーケストラと市民の誕生〜【スコラ特別編】」が始まったばかりだった。何とかまにあった! ポポロ・ホールという会場は素晴らしい施設で、音が体にしみ込んでくる。スコラ特別編とある通り、NHKのEテレでも放送されている“教授”の音楽史基本講義+生演奏という超贅沢な内容。小沼純一との軽いトーク形式で結構難解なことを喋っている。音楽社会学的な要素も含まれているのだ。リスナーが王侯貴族から市民になっていく過程、ドビュッシーはワーグナーなしにはあり得ないという道筋の話、指揮者とは何者か、本当に必要なのか、オーケストラとは何人以上か、調=コードがまるで実家のように機能していた時代から脱コード化してまるで家のないよるべなき漂流へと移って行ったプロセス等々お喋りを聴いているうちに、バッハからベートーベン、ベルリオーズ、ブラームス、ワーグナー、ドビュッシー、ストラヴィンスキーからミニマル音楽に至るまでの音楽通史が無理なく理解できる仕掛けが施されている。NHKのカメラクルーがたくさん入っている。こういうイベントを番組で放送できるなんて、やっぱりNHKはEテレかBSだな。テリー・ライリーの曲『In C』の演奏のあと、教授の曲が3曲。これが何とも凄かった。なかでも世界初演の『ボレリッシュ』。タイトルの通り、これはラベルの「ボレロ風の曲」という意味だが、映画監督ブライアン・デ・パルマの要請で坂本龍一が「ボレロ風の曲」を厭々作ったのだという。ところがこれが『ボレロ』と同様に、またいいのである。劇的な名曲に仕上がってしまっているのだ。映画音楽として作られたので、コンサートホールでは本当にこの日が世界初演なのだった。聴いているうちにこちらが昂ってきてしまった。そして名盤「音楽図鑑」から『レプリカ』、最後は『ラストエンペラー』で締めた。となると、坂本龍一の曲は西欧古典音楽からの流れの延長に位置づけられる、実に正統な嫡子であることが認識されてしまうのだった。松浦修指揮の広島交響楽団は今回のこのコンサートで実に乗りに乗っていた。こういうオーケストラがいる都市というのはいい。それにしてもドビュッシーの『海』はいつ聴いても美しい。萎えたこころが癒された時間だった。


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