集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-06(5) 世界報道写真展と西欧的視点

世界報道写真展2012内覧会にて(筆者撮影)世界報道写真展2012内覧会にて(筆者撮影)

 毎年必ず見ている写真展のひとつに「世界報道写真展」がある。この写真展は世界中を巡回しているが、東京での展示は東京都写真美術館で行われている。写真展としては結構な数の観客が訪れている。「世界報道写真展2012」と銘打たれた今回の写真の出品作は、主に撮影の時空間が2011年のものだったので、〈激動〉という言葉がまさにふさわしい歴史の目撃者たちの作品が並んだ。写真美術館で開かれた内覧会には多くの人々が訪れていたが、展示をみて強く感じたことがある。それは作品を「選定する側」の視点、立ち位置ということに関係している。一般に「アラブの春」と総称されている中東地域での民衆蜂起と政権転覆の連鎖的波及は、確かに非常に大きな歴史の転換点だ。今回の大賞(World Press Photo of the Year)に選ばれた サムエル・アランダ(スペイン)の作品は、中東イエメンの首都サヌアで起きた反政府デモで負傷し、野戦病院に運び込まれた息子を抱きかかえている黒衣の母親の写真だ。母親の表情は黒衣のベールに隠されているのでうかがい知ることができない。ある意味では、〈中東〉という表象がこの黒衣の母親と裸身の息子との対比によって際立つ。実に西欧的視線だ。その他のニュース部門の単作品、組作品でも1位に選ばれているのは、エジプト政変やリビアでの戦闘シーンだったりする。そこにどうしても僕は西欧からみた〈激動の中東〉の表象が見え隠れしているように思ったのだ。それは言葉にしてしまうと実に陳腐なもの言いになってしまうのだが、あの〈中東〉がようやく民主主義を実践しているぞ、とでも言うような、「選定する側」の〈優位に立つ視線〉とでも言おうか。僕自身は、2011年は世界史的には、東日本大震災と福島第一原発事故に象徴される〈惨事〉とともに記憶されると思っていたのだが、やはり西欧的視点からは〈中東〉が近く、〈極東〉は遠いのである。もちろん展示には、直後の被災地を写した朝日新聞・恒成利幸氏の「宮城県名取市の路上で泣いている女性」の単写真や、毎日新聞・手塚耕一郎氏のヘリコプターから撮影した津波襲来の組写真なども含まれていた。また、福島第一原発事故に関しては、AP通信のデービッド・グッテンフェルダー氏による「原発避難民」というすぐれた組写真が展示されていたが、全体の中ではどうしても〈中東〉が前面に出ている印象だった。考えてみれば、僕ら日本人は、夥しい量の津波の映像を見てしまっているのだが、「報道写真」はそれらの映像とは異なるカテゴリーに属する何ものかなのだった。だからこの展示は、いったい「報道写真」とは何なのかを再考する機会にもなった。

 

「世界報道写真展2012」
 東京都写真美術館、2012/6/9~8/5
http://syabi.com/contents/exhibition/index-1587.html


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