集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-06(1) 鉄割+東陽片岡のパンク演劇をみる

『ワイルドサイド歩きっぱなし』の鉄割+東陽片岡(筆者撮影)『ワイルドサイド歩きっぱなし』の鉄割+東陽片岡(筆者撮影)

 東陽片岡の漫画を偏愛していた。こういう突然変異のような漫画家は滅多にいるものではない。あの細密な畳の目の描写から滲み出てくる匂いと言うか、郷愁、ノスタルジアは、一見、昭和的と言ってもいいが、それが何で平成24年の東京でこんなに受けているんだい? その東陽片岡と演劇集団・鉄割アルバトロスケットのコラボ演劇を六本木でみた。とにかく会場のスーパーデラックスは立ち見も出るほどの満員状態だった。わけがわからない。僕のようなおっさんは数えるほどしかいないが、若い観客たちの熱狂ぶりをみながら納得した、こりゃあ「3丁目の夕日」のパンク版だな、うん。4コマ漫画のようなのもあれば、東陽片岡ワールドそのもの(『幻の女』『ふでおろし1985』など)もあり、いわく言い難い演劇のようなものが目の前で進行しているのである。だが、パワフルであって、かつ、不器用で、ぬるい。役者たちの身につけているものが徹底的に「3丁目の夕日」的だ。汚れた白衣。旋盤工の作業着。三角パンツ。〈あいつら〉の小奇麗さを嘲笑っているかのようだ。何しろ音楽の選曲のセンスが抜群にいい。『ワイルドサイドを歩きっぱなし』とか『上野発の…』も奇妙におかしい。この笑いの質は何なんだろうか。哄笑。乾いた笑い。ニヒリズムの笑い。後に尾を引かない笑い。何も起こらないことのおかしさ。演劇の約束事を無視するおかしさ。その意味では、この舞台は、不条理劇の幻燈館のようなもんだ。どこかで唐十郎的な世界ともつながっている。元来、演劇は小屋から小屋へと転戦していく見世物だった。その原型がここには生き残っている。紅一点の金宜伸ちゃんは、僕がたまに飲みに行く酒場でアルバイトをしている。ベリーダンスのダンサーだ。その彼女が「脱領域」しちゃって、このような世界とドッキングして、東陽片岡の漫画に登場するミューズの役を演じていて、これがものすごくハマっていたのは、いいことなのか、そうじゃないのか、よくわからん。熱狂のうちに終演し会場の外に出て見上げると、今まで見ていた世界とは対極の六本木ヒルズが目の前に建っていた。平成24年の東京のシンボルはこういう建物とか、下町におっ立ったスカイツリーのような建築物なのか。僕らは何と言うつまらん世界に住んでいるのか。そう思って、ヒルズの階段を上って、はっと空を見上げると懐かしいものが立っていた。東京タワーがライトアップされて夜空に映えていた。僕は個人的にはこっちの建物が好きだなあと、鉄割+東陽片岡のパンク演劇をみたあとだからか、心からそう思った。


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