集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-05(2) 無礼な観客たちと火の鳥のことなど

国際フォーラムの会場を飛翔する「火の鳥」(筆者撮影)国際フォーラムの会場を飛翔する「火の鳥」(筆者撮影)

 今年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに出演した日本人のアーティストたちで、クラシック音楽界以外からの出演者のステージをみた。ひとつは、渋さ知らズの公演「渋さ版・サクル・リュス」。いったい何故彼らがこの音楽祭に登場してきたのか、プロデューサーのルネ・マルタンに直接聞いてみたら、彼らは今年1月のフランスのナントでのラ・フォル・ジュルネの音楽祭公演にも招待されていて、大いにかの地の観客たちを魅了したのだという。彼もこころを奪われたひとりだった。そうだろうなあ。僕もこんな素晴らしいステージを楽しめて、このチケット代金は安いなとさえ思った。渋さ知らズは、例によって自由な音とダンスの混合を十二分に披露していたのだが、ラストの曲ストラヴィンスキーの『火の鳥』にちなんだ曲になって、観客席に銀色の「火の鳥」の大きなバルーンのオブジェが舞い上がるという大仕掛けが登場した。これがホールを飛翔する「火の鳥」のイメージを実によく表わしていた。さらにその頃には、ステージの上に若い観客たちが大勢駆け上っていて、楽団と一緒に踊りだすという熱狂の日々が現出した。この音楽祭のタイトル通りのことがホールで起きたのである。それだけでも足を運んだ価値があったというものだ。
 もうひとつは、コンテンポラリー・ダンスの勅使川原三郎と合唱隊ヴォックス・クラマンテスとのコラボだったのだが、開演がわずか10分遅れたことから、何かが狂いだしてしまった。最終日のフィナーレを飾る別会場のベレゾフスキー+ウラルフィルハーモニー管弦楽団のステージに間に合わせようとした観客たちが、クライマックスにさしかかっていた勅使川原のステージの最中に、どんどんと客席を途中で立って移動を始めるというシーンをみることになってしまったのだ。クレーク「夜の典礼」から始まり、作者不明の讃歌「沈黙の光」に至り、まさに勅使川原のダンスに力がこめられていた、まさにそのような瞬間だった。前列のひとりのおばちゃんが堂々と席を立って小走りにホールを出て行った。するとそれに続き、次々と何だか申し訳なさそうなそぶりの人や、全然関係ないよ、という感じの人まで、とにかくホールを後にして何人もの観客たちが退席して行くのだった。何という無礼な観客だろうか。同じ観客席にいて無性に腹が立った。遅れてしまって見られないのなら仕方がないじゃないか。でもそれが絶対にできない人たちがいるのだ。それでも勅使川原のダンスはすさまじい緊張感が持続していた。また見よう。


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