集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-04(2) ストラヴィンスキーがいたじゃないか

カーテンコールでのカンブルラン&読響 (筆者撮影)カーテンコールでのカンブルラン&読響 (筆者撮影)

 ロシアという国には途方もないスケールのアーティストたちがいた。そういうことの一端を身にしみて感じることができたのは、4年足らずのモスクワ生活があったおかげだが、クラシック音楽の世界だけをみても、晩年のリヒテルや、保守派クーデター事件の際に外国から「非合法帰国」して、そのままロシア最高会議ビルに銃を持って立てこもったロストロポーヴィチ、モスクワ・ソロイスツ合奏団を立ち上げたばかりのユーリー・バシュメットらの生の演奏に触れる機会があったりして幸運だったこときわまりない。ロシアの作曲家には、チャイコフスキー、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなど、20世紀初頭の音楽に革命を巻き起こした偉大な作曲家たちが名を連ねている。こういうロシアの革新的な動きは今に至るまで輝きを失っていない。これらの人々が残した曲の数々は世界中の演奏家たちによって奏でられ、今の世界に生きる僕らにも深い感銘を与えてくれる。
 シルヴァン・カンブルラン指揮の読売日本交響楽団でストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を聴いた。この曲はほんとうに久しぶりに生で聴いたのだった。初演は1911年6月のパリ。ロシアバレエ団がパリを席巻していたさなかに作られた曲だ。とにかくこの波動というかクライマックスを何度も迎える生命の躍動感覚に圧倒されるのだ。「火の鳥」「春の祭典」に通じるあの前衛性は今に至っても死んでいない。すさまじい迫力のうちに演奏が終わるとともに会場から大きな拍手が沸き起こった。そうだよな、ストラヴィンスキーがいたじゃないか。そんな当たり前のことがらにあらためて感激してしまったのだ。読響の演奏ぶりはひとりひとりの奏者が演奏を存分に楽しんでいる様子がみてとれて、そのくせ一体感が感じられて、とてもいい雰囲気が漂っていた。カンブルランの指揮ぶりも曲調と実によくマッチしていて楽しめた。
 この日の演目はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」から始まって、さらに同じドビュッシーのバレエ音楽「おもちゃ箱」とバラエティに富んでいて、全く時間を感じさせなかった。ロシア発のクラシック音楽は力がある。プーチン政権下でロシア・ナショナリズムが高まりを見せるなか、おそらくロシア音楽のパワーは、良くも悪くもその活動領域をどんどんと世界に広げていくのではないか。バレエも文学も美術も、スケールの大きさという点では、島国・日本は到底かなわないかな。

 


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