集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-02(3) スパシーバ・ボリショイ!

「スパルタクス」のカーテンコールにて(中央を駆け抜けているのがイワン・ワシリーエフ)撮影筆者「スパルタクス」のカーテンコールにて
(中央を駆け抜けているのがイワン・ワシリーエフ)撮影筆者

 あまりにベタなタイトルをつけてしまったが、ロシアのボリショイ・バレエを本当に久しぶりにみた。堪能した。若いころは、俺は絶対にバレエやオペラなんか縁のない人間なんだからな、と自分に言い聞かせていたものだが、わはは、これがバレエもオペラも今では嵌ってしまうことがあるほどという体たらくなのだ。今回来日したボリショイ・バレエ団の演目は、今年85歳になる振り付け師ユーリー・グリゴローヴィチを称える連続公演と銘打っている。初日の『スパルタクス』をみる。ローマ帝国史のなかのスパルタクスの反乱をモチーフにしたものだが、スパルタクス役のイワン・ワシリーエフの空中でスローモーションがかかっているようにさえ見える、ものすごい超絶演舞に圧倒される。もっとも彼はすでにボリショイからミハイロフスキー劇場に移籍してしまっている。移籍にあたっては大騒ぎになったらしい。バレエは女性のものと思われがちだが、何の、何の、ハチャトゥーリアンの激しいリズムの楽曲に合わせて展開される男どもの群舞の尋常ではない迫力。これぞボリショイだ。東京文化会館のステージは、彼らのダイナミックな踊りのスケールには少々狭すぎるのではないか。クラッスス役のアレクサンドル・ヴォルチコフは一度尻もちをついたりしていたし。そのクラッススの愛人役のバレリーナも妖艶な魅力をたたえていた。ボリショイ劇場管弦楽団の音も実によかった。初日なので終演後、オープニング記念レセプションがあった。別件の用事があったこともあり、ちょっと覗いてみたら、すっかりミーハー気分に浸ってしまった。特に、演技を終えたダンサーたちが会場に次々に入ってくると、あちこちでフォト・セッションが始まった。そういうところにはついつい寄って行ってしまう習性がある。何やってんだか。主役のイワン・ワシリーエフが入ってきた。いわゆる目パチ系の王子様タイプではなく、野性系筋肉質のダンサーだ。すすすっと寄って行って、思い切って「どうしてボリショイ・バレエ団をやめたんですか?」と英語で聞いてみた。彼曰く「新しいチャレンジをしてみたいと以前から考えていた。今までやったことのないことを新しい劇場でやってみたいと思っている」と話していた。招聘先のジャパン・アーツはソ連時代からロシアのアーティストたちとの直接交流を積み重ねてきた実績のある人々のプロ集団だ。その人たちと話をしながら僕は、ロシアの芸術家は歴史に裏打ちされた重みがあるよなあ、と勝手に感慨にふけったりしていた。

 


back
 

集英社新書>WEBコラム>カルチュアどんぶり

ページ上部に戻る

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.