集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-02(2) こんな真冬にパット・メセニーだよ

(筆者撮影)(筆者撮影)

 都会の憂愁。パット・メセニーの曲には、そういうメランコリックな情感が漂う。めちゃくちゃ洗練されているし、全然土臭くなんかない。パット・メセニー・グループとしての演奏はライブで何度かアメリカに住んでいた時に聴いてきたけれど、とにもかくにもクールなのだ。最近も、アコースティックギター一本でヒット曲をカバーしていたけれど、今回のライブはそういうのと一枚も二枚も違っていた。いきなり一人でリードギター、リズムギター、ベースギター、ドラムスまで、やたらと弦がいっぱい付いているギター一本でアクロバティックに奏でた。こんなことも平気でやってしまうのがパットの超絶技巧だ。ブルーノート青山の観客はそれで十分に圧倒されていた。そこにウッドベースのラリー・グルナディエが登場して、2人のあいだで緊張感あふれるかけあいが始まるとステージは一変した。ウッドベースとのデュオが何とも心地よい。演奏している2人が一番気持ちがいいんだろうなあ。「東京のこの場所は特別な場所だ。なぜって、観客が食事しながら、まるで居間にいるみたいに音楽を楽しめるんだから」とパットは演奏の合間に言っていたが、本当にジャズのライブを聴きながらゆっくりとメシを食うなどという場所はどちらかというと例外的なのだ。ジャズはもともとそういう音楽ではなかった。ちなみに僕はそこで腹いっぱいメシを食った。後半では自家製のリズムマシーンのような一見してかなり素朴な打楽器装置を使いながら、メカを駆使して10秒前の自分の演奏と共演・重奏していた。2人の人間だけでこんなことまでできるんだ。あまりのカッコよさに呆然としてしまった。こんな真冬にパット・メセニーだよ。ブルーノートのロビーで、パット・メセニーのTシャツやら関連グッズを売っていたあんちゃんは、「ここ(日本)に来る前には、アリゾナ州のフェニックスでライブをやってたんだ。華氏72度(22℃くらい)だった。あしたは札幌でのライブだ」とニコニコしていた。Tシャツを買ったら、ギターのピックを記念にくれた。考えてみると、パット・メセニーって「ギターをもった渡り鳥」だ。ただし、世界をまたにかけた。アンコールにこたえて、パットはThe Way Up のメインのメロディラインを気持ちよさそうに奏でていた。大枚をはたいて、しかも整理券をもらうために家人に並んでもらった甲斐があった。パット・メセニーは疾走し続けている。

 


back
 

集英社新書>WEBコラム>カルチュアどんぶり

ページ上部に戻る

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.