集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-01(2) ミニマル創始期の人、シャルルマーニュ・パレスタイン

演奏前のシャルルマーニュ・パレスタイン(左 筆者撮影 於渋谷WWW)演奏前のシャルルマーニュ・パレスタイン(左 筆者撮影 於渋谷WWW)

 若い友人に勧められて、シャルルマーニュ・パレスタインの初来日ライブを渋谷でみた。NYブルックリンの出身で、テリー・ライリー、フィリップ・グラスや、スティーヴ・ライヒらと時期を同じくして、つまりミニマル音楽の創始期から、活動を続けてきたという。だから「ミニマルミュージック界を代表する鬼才のひとり」などとチラシにあった。NYに住んでいた時も僕はパレスタインについては知らなかったので、ちょっと興味が湧いた。狭い会場には、観客に周囲を囲まれるような形で、1台のヤマハピアノと結構な数のぬいぐるみが配置されている。ライブが始まる前から観客をハンディのビデオカメラでしきりに撮影している小柄のおじさんがパレスタイン氏なのだった。遊んでいるのだ。だが、写されている方の観客がちっとも反応しない。そのあたりから僕らはNYの観客とは決定的に違うのだ。「儀式」として始まった最初の曲は、酒の注がれたワイングラスの縁を撫でて出てくる「風のそよぎ」の様な音を味わうものだった。何だかネイティブ・アメリカンの音楽を連想させられた。そして、ミニマル「誕生前後」の音質を思わせる、反復を基調とする激しくかつ長いピアノ演奏が始まった。音楽の素人としての僕が理解しているミニマル音楽とは、①精確な反復性 ②無機質・機械的 ③リズムが主体 ④確固とした形式性 といった表層的な特徴をもつと思うのだが、演奏が継続されるにつれて、それが逆に、①反復から微妙に生じるズレ・ゆらぎ ②無機質から滲み出てくる激越な抒情 ③リズムに乗って醸し出される複雑なメロディ ⑤形式から解放される自由 といったもろもろの特質が「生まれてくる」のがミニマル音楽なのだと思っている。1時間以上に及ぶパレスタイン氏の演奏は、精確な反復性というよりも、むしろ強弱や遅速の変化が十分に含まれていた有機的な音楽だったように思う。だからライヒのようなミニマルとはちょっと趣が違う。それでも聴いているうちに、ミニマル音楽特有のあの長周波を感じるようなグルーブ感覚が広がってきた。ピアノの鍵盤が悲鳴をあげ出していた。そこで1時間近くに及ぶピアノ演奏は終わった。観客は何だかあっけにとられているようだった。ライヒのようなミニマル音楽を連想してきた人にはちょっと置いてきぼりを食ったような感じかもしれない。さぁっとライブは終わり、さぁっと観客たちは帰って行った。不思議な一夜だった。

 


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