集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-01(1) 塩釜の「ガロ」

筆者撮影筆者撮影

 宮城県塩釜市も東日本大震災の被害を被った港町だ。塩釜港には4.1メートルの高さの津波が押し寄せた。この塩釜市を故郷とする「ガロ・編集長」故・長井勝一さんの功績を称えてつくられた「長井勝一漫画美術館」が市の生涯学習センター内にある。JR塩釜駅のすぐそばだ。仙台に取材に出かけた際に少しだけ足を延ばしてこの美術館を訪ねた。海からは少しばかり距離があったので津波被害は免れた。こじんまりした空間に「ガロ」がいた。館内には「ガロ」に寄稿していた漫画家たちの原画が所蔵されていて、誰でも間近にみることができる。つげ義春の「ゲンセンカン主人」の主人公のような原画があった。水木しげるの原画もあった。「ガロ」の表紙が壁一面に展示されている。また、青林堂にあった長井さんの仕事場の机、イス、電話の現物がほぼ当時のまま展示されている。1991年3月、僕が今も勤めているテレビ局のモスクワ支局に赴任する前に長井さん宛てに出した挨拶状も保管されていた。その現物をみた。モスクワでも「ガロ」を読みますとか手書きで書かれていた。20年なんてあっと言う間だ。館内には旧式のテレビ再生機がちょこんとおいてあり、「ガロ」をテーマにしたNHK・ETV特集「マンガが時代を映してきた」の作品『カウンターカルチャーの旗手たち』『面白主義の登場』(1996年)のVHSテープを立て続けに2本見た。前者に登場していたのは、中島らも、森田芳光、渡辺和博、杉浦日向子、永島慎二といった人々。みんなこの世から去って行った人だ。「ガロ」への思いを語るさまざまな人々が登場したなかで、漫画家の矢口高雄の言葉がこころに残った。故郷・秋田から漫画で自立する決心をし、銀行員の仕事をやめて上京をした後、当時の長井さんから、メジャー漫画誌の編集者の名刺を全部渡されたというエピソードを語っていた。さらに、白土三平の「カムイ伝」を支持していた理由として、東映フライヤーズVS大毎オリオンズの試合をみていて「百姓!国に帰って肥桶でも担いでいろ!」とかいう汚いヤジに傷ついていた当時のこころ模様を語っていた。モスクワから僕は3年にわたって長井さんに手紙を書き続けていた。その手紙の一部が、『ロシアより愛をこめて』という本になって出版されたのは1995年3月のことだ。その翌年の正月に長井さんは亡くなられた。「ガロ」という文化運動は今に至るまで輝きを失っていない。出でよ! 現代のカムイ伝。


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