集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-11 (4) カンチェリの『無意味な戦争(アマオ・オミ)』(日本初演)を聴く

喝采を受けたモスクワ国立合唱団(筆者撮影 東京オペラシティ・コンサートホール)喝采を受けたモスクワ国立合唱団
(筆者撮影 東京オペラシティ・コンサートホール)

 来日したモスクワ国立合唱団の今回の公演のなかで、日本初演ということで期待度の高かったカンチェリの『無意味な戦争(アマオ・オミ)』を聴いた。宗教的な静謐さと激情のほとばしりが交錯する美しい曲だった。厳粛な気持ちがよみがえってきた。被災地を初めて訪れた時の気持ちのことをいっているのだ。『無意味な戦争』は、混声合唱とサキソフォーン四重奏の組み合わせという珍しい形式で2005年に作られた曲だ。あくまでも合唱がメインで、それを四重奏が控えめに柔らかく、けれどもしっかりと包んでいるように聴こえた。作曲のギヤ・カンチェリは旧ソ連のグルジアで1935年に生まれた。首都トビリシのルスタヴェリ劇場の音楽監督をしていたのだそうだ。僕もグルジアには取材で何度か訪れたことがあるが、カフカス山脈の麓に広がる首都トビリシの町は、内戦による戦火の影響でところどころに破壊の跡がみえたものの、まだ美しい場所だった。歴史的には、画家のピロスマニや、バレエダンサーのニーナ・アナニアシヴィリといった国際的なアーティストを輩出し、さらにはアニメ映画の質がとても高かったことを記憶している。「アマオ・オミ」とはグルジア語で「無意味な戦争」という意味だそうだが、どうしても近年、グルジアがロシアとの間でたどった歴史と重ね合わせてしまう。モスクワとトビリシとの関係は今や水と油になったが、旧ソ連時代は、何しろスターリンがグルジア人であったし、ソ連末期の外相シュワルナゼもグルジア人だ。音楽の評価にこういう政治の分野を重ね合わせてしまうのは邪道だが、楽曲の成立の動機にそのような部分が関わっていることを考えるのは邪道ではあるまい。グルジアの民族音楽の影響を語れるほどの素養は僕にはないが、それにしても、あの「強度」はすさまじい。ロシア正教、ギリシア正教の聖歌がもっているあの直線的な和音の「強度」に通じているような気がする。21人の男女からなる国立モスクワ合唱団の存在感は圧倒的で、指揮のウラディーミル・ミーニンもみごとに呼吸を合わせていた。開始時間にわずかに遅刻した僕は、冒頭のスヴィリードフの合唱のためのコンチェルト「哀歌」をホールの外で聴く羽目になった。震災被災者のための追悼演奏だったが、ホールの外にまでその力が伝わってきた。続く、ラフマニノフの「晩祷」作品37は、ロシア正教会の聖歌の伝統にあわせて作られた教会音楽で、実に美しかった。休憩後のロシア民謡も含めて、この時期のロシアからの文化使節に感謝したい気持ちで一杯になった。


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