集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-11 (1) 笠井叡の超高速的カラダ

「虚舟」上演後、横浜赤レンガ倉庫1号館から海をみる(筆者撮影)「虚舟」上演後、横浜赤レンガ倉庫1号館から海をみる(筆者撮影)

 僕がまだ19歳だった頃、とんがった本を出し続けていた現代思潮社の本ばかりを無理をして買っていた。バカだね。当時の東京はとても自由だった。笠井叡の『天使論』もそういう中で背伸びをして買った一冊だ。その『天使論』は誰かが自宅の書架から持って行ってしまったので今はもうなくなってしまった。中身を読んでもさっぱりわけがわからなかった。その笠井は今は67歳になる。もう何年も前に世田谷のパブリックシアターで笠井の『花粉革命』をみて、笠井の舞踏がずうっと持続していたことを知って感動した記憶がある。それはすさまじい舞台だった。笠井の頭から付けていたカツラが加速度をともなってすっ飛んだのをみた。
 笠井によれば、今公演のタイトル『虚舟(うつろぶね)』とは、言うまでもなく、カラダのことなのだそうだ。僕は澁澤龍彦の小説集『うつろ舟』ともつながっているんだなと勝手に思っていた。だが公演を見たあとではあながち外れてもいなかったと思う。虚舟はまた、もともとは江戸時代の口承の伝説上の漂流船のことでもある。現在の茨城県大洗沖に突如出現した他界からの侵入者。虚舟は鉄製でガラスの窓があり、中には異国の女性たちが乗っていたという。また、「かみのいれもの」という民俗学の解釈もあるそうだ。大洗は、今は、日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターなる施設があって、異界からの侵入者など訪れる余地もない。
 笠井と三男の笠井瑞丈、そして4人の女性ダンサー(岡本優、小暮香帆、四戸由香、水越朋)が繰り広げる緊張感に満ちたステージにどんどん引き込まれていく。これは何? 一方で、笠井は実に多弁だった。何かに苛立つように「踊ってる場合じゃないんだよ!」とか言いながら、自らのカラダを無限に広げていくそのダンス。ええ? ダンス? 〈原因と結果の流れの中でしか生きられないとすれば、人生はほんとツマラネエなあ。〉〈カラダは空(から)なのだ。空洞なのだ。過去は未来に、未来は過去になり、皮膚の外側にカラダは無限に広がりつつ、それは一瞬に、この頭の中心部に帰ってくる〉(同公演のパンフレットより)。確かにダンサーが超高速的存在になり得る瞬間があった。かつて大野一雄や土方巽とともに日本の暗黒舞踏の創始に関わったエネルギーが目の前で持続している。
 観客席にはコンテンポラリー・ダンスを志す若い世代の人たちが目立った。確実に継がれていくべきものがあるのだ。


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