集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-8 (2) 現実は変革できる。オノ・ヨーコ「希望への路」

広島市現代美術館エントランス前の「願いの樹」(筆者撮影 8月7日)広島市現代美術館エントランス前の「願いの樹」
(筆者撮影 8月7日)

 8月6日の広島平和記念式典に行った翌日、同市の広島市現代美術館で開催中のオノ・ヨーコ「希望への路」展をみた。これをみられただけでも広島に行ってよかったと思う。終戦直後の焼け跡を知る世代であるオノ・ヨーコが、〈3・11〉直後に日本に向けて発したメッセージはとりわけ鮮烈だったことを覚えている。「日本は世界が最もうらやむ国になる」。彼女はこのように断言していたのだ。彼女のこのような超ポジティブなメッセージは、根拠のない楽天性から発していたのではない。彼女のながい歳月に及ぶたたかいの末に克ち得た確信に基づくメッセージであり、また、現実を凝視してきた自信に基づくメッセージなのだと思う。美術館のエントランス前には彼女の作品「願いの樹」(Wish Trees)があった。すでにこれまでの来館者たちによってたくさんの願いの短冊が木の枝に結び付けられていた。平和を願うものに加えて、〈3・11〉に触発された生命への思いが託された短冊が多く目についた。今回の展示は言うまでもなく〈3・11〉を中心テーマにしている。亡くなった人間たちのたましいを想起させる、ガラスでできた人形(ひとがた)が何体も立ち並んでいる作品。さらにそれに続く、被災地の壊滅的な被害を凝視したような、土色の棺の列がまるで遺体安置所のように規則正しく横たえられている展示。僕はこの展示の部分で強烈な衝撃を受けた。オノ・ヨーコは〈3・11〉の悲劇をきちんと凝視しているのだ。壁に叩きつけられたように描かれた毛筆様の彼女の文字からもパワーが伝わってきた。最後の展示のなかの「叛」の文字を双眼鏡を通してみて、やっぱりこの人は一貫しているなあ、コロコロ変わる僕らのまわりの状況主義者たちと違って、と実感した。現実は変革できる。イエス。なんだかやたらと嬉しくなって、帰り際に美術館のショップで同展の本『The Road Of Hope Yoko Ono 2011』を買い求めてから、中に目を通してみてちょっとがっかり。ジョン・レノンらとともに歩んできた彼女のこれまでのアーティスト歴が紹介されているもので、〈3・11〉以降の今回の展示の内容が全く触れられていないではないか。それはないよ。まあ、いいか、この目でみたんだから(と思い直すように心がけたのだが…)。序文のなかの彼女の言葉の一節をあえて掲げておこう。
“Japan possesses the intelligence and courage to build a new nation triumphing over an environmental problem unprecedented anywhere on the planet.”


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