集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-8 (1) あの日からの、しりあがり寿

しりあがり寿『あの日からのマンガ』(撮影筆者)しりあがり寿『あの日からのマンガ』

「3・11」は、さまざまな表現分野の人々に根源的なインパクトを与えている。文学、詩、映画、写真、音楽といった分野で、その衝撃の深さ、大きさが、徐々に形をとりつつあるが、漫画の世界でも当然ながらそれはある。かつて『方舟』『ジャカランタ』といった作品で、消費文明を享受し尽した果ての「人間の終末」を見通してきた漫画作家しりあがり寿にとっても、「3・11」は単なる衝撃といった語では表わしきれないほど決定的な意味を帯びた体験であったことは想像に難くない。この8月5日付で緊急出版された『あの日からのマンガ』は、しりあがり寿が、いまという状況にあって描かずにはいられなかった東日本大震災をテーマにした作品群のみを収録したものだ。朝日新聞の夕刊に連載された4コマ漫画『地球防衛軍のヒトビト』、おなじみの「双子のオヤジ」シリーズに加えて、中編の『海辺の村』『希望』『震える町』『そらとみず』の4編が収録されている。前2作には、事故後の福島第一原発建屋の無残なイメージを彷彿させる俯瞰シーンが出現してくる。特に『海辺の村』のそれは何と黙示録的な光景であることか。この光景こそが、しりあがり寿の「3・11」以降の創作のみなもとになっているかのようだ。『そらとみず』に描かれている自然の再生力への讃歌(それも楽観とは正反対のものだが)は、かつての「ジャカランタ」のストーリーを想起させるものだ。これらの作品は前述の『方舟』『ジャカランタ』の延長線上のものだろう。テーマとしてドイツの文学者グードルン・パウゼバングの『最後のこどもたち』『見えない雲』と通底するものがある。
 先日、しりあがりさんと夜中に話をする機会があった。被災地にも何度か足を運んだとのことだった。いろんな話をしたけれど「Chim↑Pom」についての評価だけは平行線だった。僕は今でもネガティブな立場だけれど、しりあがりさんはポジティブだった。まあ、それでいいのだ。そのことはいずれ別稿で書くつもりだし。
 大げさなことを書くと、生き物である僕らは、所詮は自然の一部にすぎない。文明のなかで僕らはこの基本的なことを傲慢にも忘れてきた。それどころか「原子の火」を盗み出して、万物の主として自然をコントロールしようとさえ企ててきた。いま僕らは自然からまるで復讐でもされているかのように困難な状況を甘受しなければならない立場にある。そのことの意味を考え抜こう、いや、考え抜かなければならない。その理由は、50年後の福島を舞台にした作品『海辺の村』のセリフを借りれば、
〈50年前の今日、失われたすべてのものに 祈りを〉


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