集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-7 (2) 小野リサにまつわるジンクス

終演後、キスを交わす小野リサとオスカー・カストロ・ネヴィス(撮影筆者)終演後、キスを交わす小野リサとオスカー・カストロ・ネヴィス
(撮影筆者)

 暑い夏はボサノバやサンバがいい。何しろ暑い国で生まれた歌だから。なかでもブラジル・サンパウロ生まれの小野リサは本当に実力派のボサノバ・シンガーだ。これまでも数回ライブを聴いてきた。それで、そのたびにちょっとしたジンクスがあって、隣のお客さんとの関係でちょっと嫌なことが起きてしまうのだ。それは「静かに聴け!」とか「人が歌っているときは静かに聴くもんだ」とか何しろ説教をするオヤジと隣り合わせてしまうのである。ええっ!
 今回のライブはビルボード・ライブ東京のステージだったが、オスカー・カストロ・ネヴィスとの共演だった。このオヤジが実によかった。70歳を超えますます熟成しているというか。ギターをつま弾きながら、何よりも楽しんで歌っている。「黒いオルフェ」や「カリオカ」など名曲ばかりを無理なく歌う。ボサノバとかフラメンコとかの伝統文化では、演者が年齢を重ねることがますます価値を増すということが起こる。老婆の舞うフラメンコの迫力は人生の年輪を感じさせるものだし、ボサノバの脱力感からは人生の機微が滲んできたりする。アントニオ・カルロス・ジョビンも最晩年のライブ・コンサートなんかは今聴いてもとてもいい。ステージに小野リサが登場してきてからは、ライブはいっぺんに華やぎを増した。父娘のような年齢差がかえってハーモニーを醸し出す。いいなあ。自然に拍手がわき、体が自然に動き、本当ならばゆっくり踊りだしたいくらいだった。
 うーん。ところが日本の僕らは絶対に踊らない。ひそかに足でリズムをとる程度。多くの聴衆は微動だにしない。なんか変だと思う。ボサノバのリズムも彼らを微動だにさせない。
 何年か前に日比谷の野音で聴いた小野リサのライブ・コンサートの時のことだ。暑い夏のお天気にめぐまれた日暮れ時。少なからずの聴衆がビールやワインなどを飲みながら歌を聴いていた。野音特有の熱気が漂ってもいた。僕もその中の一人だった。冷たい白ワインを飲みながら、リズムに合わせて体を揺さぶって、「いいなあ!」などと楽しんでいたら、前に座っていたオヤジが「静かにしろ!」とすごんできた。だって、ステージの上の小野リサが「楽しんで!」って言っているじゃないの。これがブラジルのコンサートだったら、あちこちでダンスが始まっている。でも、ここは何かが全然違うのだ。
 で、今回のビルボード・ライブ東京も、隣のオヤジが「人が歌っているときは静かに聴くもんだ」と説教してきた。うーむ。今度、小野リサを聴くときは、周りにオヤジがいない端っこの方の席にしよう。


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