集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-7 (1) 純粋なるもの・無垢なるもの

『

 是枝裕和監督の新作『奇跡』をみた。何しろ敬愛している映画作家なので、見よう、見ようと以前から楽しみにしていたのだが、僕も仕事の疲れからか、年齢からか、相当にボケていて、「あれっ? タイトル何だっけなあ」と反芻しながら、朝一番の回をみようと電車で出かけたのはいいのだが、「確か漢字二文字だったよなあ」と眠い頭でボヤっーと考えながら、「そうか、『軽蔑』だったっけなあ」などと会社に行く経路に近い有楽町の角川シネマに入ってしまってから気付いた。「あれっ? これ、是枝さんの作品じゃないんじゃないの」。何だかとても現実感のない若い男優が、突っ張った極道未満のチンピラ男を演じていた。これは本当に中上健次の原作作品なんだろうか、と思わず自問してしまった。まあ、いいや。
 それであわてて、館外に出て本当の是枝作品の方を探したら、目の鼻の先でやっていた。スバル座で。タイトルは『奇跡』だったのだ。子供たちが主人公の作品だ。その意味ではあの『誰も知らない』の延長上の作品か。あるいはフジテレビの「Nonfix」で放送された『日本国憲法9条』に近いのかもしれない。子供の視線に定位したストーリーという意味で。前作『空気人形』はニューヨークでみた。アメリカ人にはダッチワイフというものが理解できないので、多くの人はポカアンとしていた。だが、客席でひとり僕は衝撃を受けていた。ラストシーンの美しさに見惚れていたりした。美は悲しみとともにある。
 それで『奇跡』だが、子供たちの演技の、何と生き生きしていることよ。おそらく是枝さんは、九州新幹線開通にあわせて、いろんな「しがらみ」で苦労しながらストーリーづくりをしたんだろうなあ、というのがとてもよくわかったが、そんなことを超えて、こどもたちが周りのダメな大人たちを乗り越えていく希望をみようとしている。純粋なるもの、無垢なるものが、この世の中に希望を生み出していく。そういうことがとてもストレートに伝わって来た。途中で子供たちに〈演技〉を外して、報道ドキュメンタリー風に夢を語らせている箇所がとてもいいなあ。ああいう遊びを作品に組み込ませることなんか、なかなかできないことだ。ときおり映画の中で〈演技〉が〈本気〉に転じる場面というのがある。そういう場面に出くわすと何だかすごいことを目撃したように思ってしまう。
『軽蔑』のあとに『奇跡』をみて本当によかった。純粋なるもの、無垢なるものを描ける作家、是枝さんについていこう。


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