集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-6 (2) ちゃんとやってきた人々

『ドン・カルロ』終演後のカーテン・コール(筆者撮影) 『ドン・カルロ』終演後のカーテン・コール(筆者撮影)

 東日本大震災および福島原発事故の影響で、日本にやってくる予定だった外国人アーティストたちの来日キャンセルが相次いだ。これは仕方がないことだ。ある統計によれば、約67%、つまり3人に2人が来なくなってしまったという。とりわけ原発事故の影響を恐れるアーティストたちが多いという。そんななかで彼らはやって来た。メトロポリタン・オペラは、僕が去年9月まで2年あまりニューヨークで生活していた時にハマってしまった、とまでは言わないけれど、案外いいもんだなあ、と好きになってしまった。食わず嫌いが直されたのだ。その彼らが今回、日本で来日公演を挙行すると聞き、やっぱり見たくなってしまった。もっとも『ラ・ボエーム』の主役を演じるはずだった美貌のソプラノ歌手の最高峰アンナ・ネトレプコが原発事故を恐れて急きょ来日をキャンセルしたり、オーケストラ指揮のレヴァインも来なくなったりして、当初の予定とはかなり異なる配役となった。けれども、そこはメトロポリタン・オペラ。層の厚さはとんでもないほどで、代役がここぞとばかり一気に本領を発揮したりするのだ。それで今回、僕が劇場に飛び込んで行ってみたのはヴェルディの『ドン・カルロ』。4時間40分の大作だ。16世紀のスペイン宮廷が舞台だが、ロドリゴ役のホロストフスキーが実にハマり役で、観客から大喝采を受けていた。国王フィリッポ2世役のルネ・バーベのバスも大迫力。ソプラノのポプラフスカヤも素晴らしかった。古典オペラの筋書きは理屈ではない。単純であれば単純なほど、バカバカしければバカバカしさの限りを尽くした方がいい。この『ドン・カルロ』も全くもって単純きわまりない筋なのだが、だからこそ感情移入ができるという仕掛けになっている。久しぶりにメトを堪能した。
 去年見逃してしまったオペラで、どうしても見たかったのが『ニクソン・イン・チャイナ』だ。ニクソン米大統領の電撃的中国訪問をテーマにしたオペラだが、いったいどういう奇想天外な筋書きが用意されているのか、何とか見る方法がないものか、考えあぐねているところだ。そう言えばきのう、ある外務省OBから面白い実話エピソードを聞いた。日本の駐バーレーン大使が中東情勢の悪化にともない外務省本省から帰国命令が出た時のこと。帰国準備をしていたら、そこに3月11日の大震災と原発事故が起きた。すると今度は駐東京のバーレーン大使が本国から原発事故が危ないから直ちにバーレーンに帰国するようにと命令が出た。双方の大使のあいだで、一体どっちが本当に危ないんだと論争になったとのこと。


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