集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-5 (2) 「マイ・バック・ページ」の感傷力

 川本三郎の関わったあの事件を映画化すると最初に聞いて、なぜ今なんだろうか、と多少いぶかる思いがしたのを記憶している。赤衛軍事件というのが1971年にあって、自衛隊の朝霞駐屯地で自衛官が新左翼のグループによって殺害された事件だ。現場には赤衛軍と書かれた赤ヘルメットとビラが残されていた。そのリーダーを自称していたのがKという男だった。Kについては逮捕後、誇大妄想に近い虚偽の供述を重ねたことから、京大パルチザンの滝田修こと竹本信弘氏が事件の「黒幕」=首謀者にでっち上げられ、その後の10年に及ぶ逃亡生活を余儀なくされたという経緯がある。Kの供述調書を読むと(その機会があった)、自己陶酔と自分を大物に見せたいという妄想に満ちたひどい代物だった。あることないこと何でもベラベラ喋っている。検事の誘導というだけでは説明がつかないような内容だ。長山検事という人物が取り調べにあたったのだが、彼自身の口から「何でもよく喋ったな」というのを僕は聞いたことがある。
映画『マイ・バック・ページ』より(c)2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会 映画『マイ・バック・ページ』より
2011年5月28日より、新宿ピカデリー、丸の内TOEI他で
全国ロードショー
(c)2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会

 川本の自伝的エッセー『マイ・バック・ページ』は僕の好きな本の一冊で、すでに1989年の6月に読んでいた。今回、映画をみてから探してみたら自宅の本棚の片隅に埋もれていたが、どうもこの本は捨てられなかったらしい。Kとの出会いのシーンが、そう、実に映画的に書かれていた。川本のアパートの本箱にあった中村稔の『宮沢賢治論』を手にとって、自分も好きな本だと言ったこと、川本の部屋にあったギターをKが手にしてクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR)の『雨を見たかい』を弾き語りで歌ったこと、そして、映画『真夜中のカーボーイ』がよかったと言ったこと、これらのことから川本がKを信用してしまったというくだりがある。僕自身はこの当時、高校2年生だったが、このセンスが妙によくわかるのだ。いや、今となっては、それは単なる時代状況に対する感傷=センチメンタリズムなのかもしれない。だが、本当のところ、感傷こそが原動力になることがある。
 映画では川本役の妻夫木聡がよくハマっているが、K役の松山ケンイチについては僕自身の人物像への思い込みが強すぎるからだろうが、少しもの足りなさを覚えてしまった。妻夫木は昔のテレビドラマ『砦なき者』(2004年 テレビ朝日)での演技がすごかったけれど、こういうのもいい。それにしても最初の疑問に戻ると、なぜ今、映画化されるのだろうかという、そもそもの所に行き着く。それはひょっとして、今の時代の邦画のテーマがあまりにもウソ臭くて、切実なもの、本当のこと、お涙頂戴のライトなストーリーとは違う痛みを伴うリアルなものを求めている証左なのかもしれない。


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