集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


11-5 (1) ハメルンの笛吹き、大熊ワタルについていく

 2010年9月にNYから日本に帰国して8カ月が過ぎた。日本に本拠地にしてみた文化探訪のようなものをブログで連載したいという申し出を担当編集者にお話ししてからも随分と時間がたってしまった。そうこうしているうちに、東日本大震災と、さらに原発事故が起きて、僕らの住む世界のありようが大きく変わってしまった。そういう「切断点」だからこそ、文化のことを書きとめておきたい。今は書きとめておかなければならないことがらがとても多い時代だ。

『平和に生きる権利』を演奏中の珍多摩5(筆者撮影 @広島カフェ・テアトロ・アビエルト) 『平和に生きる権利』を演奏中の珍多摩5
(筆者撮影 @広島カフェ・テアトロ・アビエルト)
 シカラムータ大熊ワタルの音楽に惹かれて、ここまでついてきてしまった。広島の郊外、JR可部線・上八木駅から降りて一分、カフェ・テアトロ・アビエルトである。と言って小洒落た隠れ家的レストランなんぞを想像してはいけない。そこは裸の「場」であった。大震災とそれに引き続く原発事故という時代の「切断点」の今にあっては、よほどの強度がない限りあらゆる表現の化けの皮が剥がれてしまう。そのような緊張をはらむ状況であるからこそ「自粛」ではなく「歌舞音曲」を! 彼がそう考えたかどうかは知らないけれど。大熊とこぐれみわぞう、それに多摩地区在住のミュージシャンが、原発事故を凝視しながら徒党を組んで、『ワタル世間は春祭り』と銘打って日本列島を南下してきた。珍多摩5(ちんたまファイブ)というらしい。楽しいねえ。嬉しいねえ。大熊らは先ごろ高円寺であった脱原発デモにも参加して、ぐいぐい人々を引き込んでいったらしい。参加者はどんどん膨れていって1万5千人にも達したとか。去年の6月、カナダのトロントでG8/G20に対する反対デモを取材中に出会った楽隊がいる。デモ隊の真只中で、ものすごくクールな演奏をしていた楽隊があった。Chaotic Insurrectionと名乗っていた。楽隊はもともと「ハメルンの笛吹き」のように魅力的で危険な存在だった。ずうっとついていきたいくらいに心地よい時間をつくりだす。ひとさらい。たましいがさらわれる快感。シカラムータもそうだ。頭のなかが化石になっているような労働組合、自称「市民団体」の主導する、あのカッコ悪く、お経のようなシュプレヒコールが人々を遠ざけ続けるデモとは違って、デモや集会を楽しくする楽隊がいる!

 ヴィクトル・ハラの『幸福に生きる権利』がステージで奏でられると、この曲こそ今の状況が求めている曲だなと、そこにいたみんなが思ったはずだ。時代の曲というものが確かに存在しているのだ。大熊ワタルについていこう。


back
 

集英社新書>WEBコラム>カルチュアどんぶり

ページ上部に戻る

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.