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○岡崎玲子(おかざき れいこ)
1985年兵庫県生まれ。小学6年生時に英検一級を取得。静岡県浜松市の公立中学1年生時にTOEFL670点、2年生時にTOEIC975点を獲得し、また国連英検特A級を取得する。全米トップ3に入るといわれるプレップスクール(寄宿制私立高等学校)、チョート・ローズマリー・ホール校に合格し、中学3年生の2000年9月からチョート校2年生として入学。現在、同校3年生として在学中。

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021 寮生活の楽しみ方

◇ライブラリー

去年の寮、ウェストウィングのトレーナー
ニューイングランド地方2位の実績を誇る、女子ラクロスチーム。宿敵ディアフィールド校との対戦です。
山中のジョギングコースを抜けると、目の前にはキャンパスの緑が広がっています。
カプチーノから軽食まで・・・新メニューが楽しみなキャンパスカフェ、「タックショップ」
 春を飛ばして、冬から夏へ。今年の四月は、何度か雪もちらついた上、数日間暖かい気温を楽しんだあとも冷え込みがしばらく続いていました。ところが、中旬には一晩で気候が急変。三日連続で30度以上を観測する真夏日となったのです。私が幼少期を過ごした南カリフォルニアではカラッとした暖かい天気が印象的でしたが、ニューイングランドの夏は湿度が高いのに驚きました。
 つい最近までキャンパスが雪に覆われていた事実が信じられないほどの陽気に、初めは喜びの声が上がっていました。しかし、学校側からは「冬対応のセントラルヒーティングから冷房へ移行するのに三日間かかる」という知らせが。蒸し暑い教室や寮の部屋に比べると、陽射しが強くても風の当たる屋外の方が涼しく感じるほど。建物のエアコンが動きだすまでは、気温調節されている食堂と図書室、そしてジムに避難しました。階下の図書室は、貴重な本のために空調設備が完備されているため、私たちの寮では「生徒たちより古本の方が大切だって言うの?」と怒りが爆発しています。
 この寮で過ごす日々も、残り二カ月を切りました。「早く注文しないと、みんなで着る機会を逃しちゃう!」そんなプリフェクトたちの声に押され、特注トレーナーが遂に完成へと動いています。もちろん参加は自由ですが、寮やスポーツチームで、お揃いの洋服を注文することはよくあります。駅前の業者に依頼するオリジナルウェアは、ジャケットから帽子までが並ぶ豊富なセレクションと、手頃な価格が大きな魅力。例えば、大人数で購入する学年Tシャツは、一人10ドルです。今年はアメリカ史のクラスでも、記念に何かをオーダーしようという話が出ました。普通のクラスでは考えられない提案ですが、この授業は毎日かなり盛り上がるので、メンバーも乗り気です。
 寮のトレーナーをデザインするにあたって、問題なく決まったのは、意外にもロゴ。ライブラリーと聞いて、学校の誰もが思い浮かべるのは長い階段です。「年中、私たちの持久力を鍛えあげてくれた階段に感謝の気持ちを込めて」と提案されたのがLibrary Stair Masters。スポーツジムにあるエクササイズマシンの商品名と掛けたアイディアに、珍しく全員一致で支持が集まりました。一人ひとりの名前は、私の場合OKAZAKIというように、袖に沿って大きくプリントされます。
 しかしトレーナーの色だけは、話題を持ち出しただけでケンカが始まる禁句となっています。好みが合わないのなら、選択制にすれば良いと提案したのですが、友だちはどうしても同じ色にしなければ、と言い張るのです。「この世にはこんなに多彩な色があるのよ。きっと、誰もが気に入る組み合わせを思い付くはず」問題は、逆にバラエティーが多すぎることなのですが、合意に漕ぎ着けるつもりのようです。決着を付けたい気持ちは強くても、誰も妥協するつもりがないのでは、議論が暗礁に乗り上げたまま。数カ月に渡り、話し合いに合計3時間半を費やしたにも関わらず、解決策が見えてきません。最後には、メンバーが顔を合わせると怒鳴り合いになるので、eメールで投票をすることに決定。どんなに差が小さくても、文句なしの多数決、というのはとても良い方法に思えました。しかし、「一人、一色を推薦」というルールが守られるわけがありません。みんなが好き勝手に提案を送るので、プリフェクトたちもお手上げ。とりあえずは、私が推していた赤地に白文字が人気だそうです。
 話し合いの後には、マクドナルドへのfood runが行われました。ファストフード嫌いの私は、いつもパスするのですが、壁に貼ってあるリストには寮のメンバーが希望の商品名と金額を記入しています。「ビッグマック、ポテトのLとチキンナゲット、チョコシェイク、アップルパイ」夜の11時に、一人がこれだけのジャンクフードを食べることには感心してしまいました。この長いオーダーを電話でお店に伝えて、一時間後に車で取りに行くのはプリフェクトの役目です。この夜は、注文をする役の彼女たちがなかなか寮に戻ってこなくて、みんなが大騒ぎをしていました。30分後に帰ってきたプリフェクトたちから話を聞くと、何と学年全員が集まり、大学から郵送されてきた不合格通知を燃やす儀式を行っていたそうです。想像すると怖い光景ですが、「あーっ、スッキリした」と、気持ちが軽くなった様子でマクドナルドへ出かけて行きました。
 フードランを開くと、集金の時点で必ず計算が合わなくなり、トラブルになります。「みんなは日頃からこんな食生活なのに、今さら何が特別なの?」と私は聞くのですが、「夜に、大勢で体に悪いものを食べるのがこの上ない喜びだから、寮生活に欠かせないイベントなのだ」と説明されました。「それにしても、寮のミーティングって必ず食べ物が中心だよね……」この指摘に、次回は別のテーマのもとに集まろう、という声が上がりました。ところが、ネイルサロンごっこやエアロビクス大会という案は、面倒なので却下。映画となると「これ、見たことがある」「あの俳優はキライ」とビデオを選ぶ時点から難しいので、やっぱり全員が満足するのは食べ物、という結論に落ち着いたのです。

◇プリフェクト

 このような計画を実行するプリフェクト(監督生)とは、寮の世話役として働く上級生。キャンパスに点在する寮にはそれぞれ個性があり、規模や場所、そして住み込みのアドバイザーの方針に雰囲気が大きく左右されます。昼間は授業を教えてスポーツチームのコーチを務め、自分の家族に加えて生徒たちの世話を受け持つアドバイザーたちは大忙し。そこで、寮ではプリフェクトが、その仕事を助けるのです。来年は、最上級生となる私たち Class of 2003が学校のリーダー。寄宿生として任される一番重要な役割が、プリフェクトです。寮のニ−ズにぴったりの生徒を割り当てるという、不可能とも呼べる任務を引き受けるのは、学年主任の先生。立候補する私たちは、まず願書を提出し、自分がこの仕事に向いている理由をエッセイに書きます。どの寮を希望するかも一応、記入しますが、実際は、各寮に住むアドバイザーの先生が、プリフェクト候補に順位を付けるリストが判定材料のようです。先生側も、評判に頼るだけでなく個人的に面識のある生徒を選ぶのが現実。一年間一緒に暮らし、寮の運営に協力することになるため、お互い気の合うことが重要なのです。私も、スポーツのコーチや教科担任として知っている先生が住んでいる数カ所を選び、面接をスケジュールしました。
 私が今年住んでいるライブラリーの、ミス・ホッジンに廊下で会ったので、「インタビューのアポイントを取りたい」と話しかけると、「オッケー。メールしてくれる?」という答えが返ってきました。都合の良い時間をやりとりしているのならわかりますが、同じ寮に住む私はいつでも面接に行くことができるはずです。二個隣の部屋に住む相手にメールを送るとは笑ってしまいましたが、忘れると困るので短いメッセージを送信してほしい、と言われました。確かに、eメールのソフトは便利なスケジュール帳。先生たちからはテストの日時がメールで届き、同じ寮に住む友だちと週末の予定を立てるのにもメールを活用します。手紙やメモと違って自分が送ったものが保存してあり、画面上での整理整頓も楽なので、近頃は手書きの文章が登場する幕がありません。
 「毎日顔を合わせているのに、改まってインタビューだなんて不思議な気分ね」というミス・ホッジンとはその後、個別面談を行いました。しかし、他の寮でのグループ面接には、部屋に入り切らないほどの生徒が集合。その人数には驚いてしまいました。先生たちも、「競争率が激しいポジションだから、残念ながら合格者は少ない。選考に漏れてしまっても、人格が否定されたわけではないんだから落ち込まないで」と一生懸命言い聞かせています。女子では、10の寮に数名ずつプリフェクトが任命されますが、これは志願者の半分以下。発表日までの一カ月間に、学校側は数々の組み合わせを検討したそうです。そして訪れた4月17日。結果は夕食の頃に発表されると聞かされているのに、授業やスポーツの間、みんな気が気ではなく、運命のeメールを待ち構えていました。
 午後五時半。体育館から部屋に戻ってみると、新着メールが届いていました。「プリフェクト」という題名からは何もわからないので、クリックするしかありません……。本文を開いてみると、「おめでとう!」という文字が目に飛び込みました。何と、第一希望のホールに任命されたのです。住み込みの先生は、私の学年主任(ディーン)ミス・クレッグ。そして今年のアドバイザー、ミス・オールドリッジもライブラリーから引っ越すという、うれしい知らせです。去年住んでいたウェストウィングの隣に位置するホールは、キャンパスの中心地にある比較的大規模な寮で、二年生から四年生まで20人前後が暮らします。下級生が、来年住む場所を決める抽選会は、この後行われるのですが、部屋の大きさや寮の位置に加え、どんなプリフェクトが揃っているのかも重要な決め手。「見てて。この4人のプリフェクトなら、ホールに応募が殺到するから」「精一杯リクルート活動をしても、ゴーストタウンになるよ」と、メンバーが揃う以前から寮対抗のバトルが始まっています。
 私と、ルームメイトとなるニッキー、そしてオリヴィアとエリンのプリフェクト仲間は、新学年が始まる9月には一足先にキャンパスへ到着し、説明会などの準備をします。また、その週末に計画されているのがアウトドアでのリーダーシップトレーニングキャンプ。私も、特に入学当初には、どんなに忙しい時でも話を聞いて的確なアドバイスをくれるプリフェクトたちのサポートが非常に心強かったことを思い出します。そんな存在を目指し、まずは今月中に4人のプリフェクトと2人のアドバイザーが集まり、来年のヴィジョンを話し合うのが楽しみです。

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